MLCC関連銘柄の地図 — AIサーバー需給逼迫の実需はどこまで川上に届くか

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IR気象台編集部テーマ株分析

MLCC(積層セラミックコンデンサ)が、AIデータセンター向けの需給逼迫で2026年に入り一気に注目テーマになりました。ただ本レポートの結論を先に言うと、実需(AIサーバー・車載)は本物でも、それが『どの階層の銘柄の決算に、いつ出てくるか』には大きな時間差がある、という一点に尽きます。完成品メーカーは業績も株価も既に反応した一方、川上の材料には決算に出た銘柄とまだの銘柄が混在します。完成品から川上の材料まで順にたどり、その『ズレ』を図と数字で解きほぐしていきます。

1.そもそもMLCCとは何か

MLCC(積層セラミックコンデンサ)は、電気を一時的に貯めて回路の電圧を安定させる、ゴマ粒ほどの極小の電子部品です。スマホ・パソコン・自動車・サーバーなど電気で動くほぼすべての機器に使われ、1台あたりスマホで数百〜千個、AIサーバーでは万単位が載ります。地味な受動部品ですが、これが足りないと機器そのものが組み立てられません。

つくりはシンプルで、『電気を貯める誘電体セラミックの薄い層』と『金属の内部電極』を交互に数百〜千層も重ね、一体で焼き固めたものです。層を薄く・多く積むほどたくさん電気を貯められる(高容量になる)ため、AIサーバー向けの高容量品は、この積層をどれだけ精密にできるかが勝負になります。次の断面図が、その構造とどの材料がどこに入るかを示したものです。

MLCCの断面模式図。誘電体(チタン酸バリウムBaTiO₃、堺化学・戸田工業・日本化学・石原産業・テイカ)の薄い層と、内部電極(ニッケル粉/ペースト、昭栄化学〈非上場〉・住友金属鉱山)の金属膜を交互に数百〜千層重ね、両端に外部電極(端子、銅・ニッケル・スズ)を付ける。下部につくり方の工程:①原料を粉砕(粉砕媒体=ニッカトー)→②シート成形+内部電極を印刷(離型フィルム=東レ・東洋紡ほか)→③積層・圧着→④焼成(焼成炉=ノリタケ)→⑤完成品MLCC(村田・太陽誘電・TDK)。

ここがこのテーマの肝です。MLCCを構造で分解すると、誘電体はチタン酸バリウム、内部電極はニッケル、と層ごとに別々の素材メーカーがぶら下がり、さらに原料を砕く粉砕媒体や焼き固める焼成炉といった『工程材』のメーカーも関わります。だからMLCCは、完成品メーカー(村田・太陽誘電・TDK)だけでなく川上の素材・工程材まで広いサプライチェーンを持ち、投資テーマとしても層が厚いのです。本レポートはこの構造に沿って銘柄を仕分けていきます。

続いて、この記事で使う言葉も整理しておきます。

  • 誘電体 … MLCCの『電気を貯める層』の素材。主材料がチタン酸バリウム(BaTiO₃)です。
  • 内部電極 … 誘電体層の間に挟む金属の膜。現在はニッケルが主流で、ニッケル粉を練ったペーストを印刷して作ります。
  • 高容量・低ESL品 … 多くの電気を貯められ、電気的なロス(ESL)が小さい先端MLCC。GPUの近くに置いて電圧変動を抑えるため大量に必要で、今回逼迫しているのはこの領域です。
  • 工程材・粉砕媒体 … MLCCそのものには残らないが製造工程で消耗する材料。原料を微細に砕くジルコニアボール(粉砕媒体)や焼成炉などを指します。

2.なぜ今、需給が逼迫しているのか

背景はシンプルです。従来サーバーでは数千個だったMLCCの搭載数が、GPUを大量に積むAIサーバーでは万単位に跳ね上がっています(ITmedia オルタナティブ・ブログ)。高容量・低ESL品のリードタイムは26〜40週まで伸び、村田製作所は2026年4月にMLCCを含む製品を15〜35%値上げしたと報じられています(newswitchBigGo Finance)。株探の集計でも「セラミックコンデンサー」が注目テーマの上位に入っています

3.AIサーバーの実需は本当に川上まで届くのか

需要のドライバーの中心はAIサーバーです。Intel Market Research のレポートでは、AIサーバー由来のMLCC需要は2030年に2025年比で3.3倍に増える見通しとされています。供給側では、TrendForceが2026年第1四半期のMLCC市場を『embodied AIがハイエンド需要を押し上げる一方、民生機器はコスト圧力で低迷する二極化』と整理しています(TrendForce, 2026/2/5)。つまり MLCC全体が一律に好調なのではなく、先端・高容量品に需要が集中している のが今回の特徴です。村田の社長は、データセンター向けコンデンサについて『引き合いは供給能力の2倍。需給逼迫は1〜2年続く見通し』と述べ、値上げの議論を進めていると報じられています(EE Times JapanBloomberg, 2026/2/17)。

ポイントは『この実需がサプライチェーンのどこまで届くか』です。データから言えるのは、まず完成品メーカーの値上げと受注に表れ、川上の材料には受注残が消化されてから波及する という時間構造です。村田・太陽誘電の値上げも、足元の受注残を消化した後の新規出荷分から本格適用されると報じられています(chainvest)。この時間差が、以下で見る『完成品は株価先行・材料は業績未反映』という構図の根っこにあります。

完成品メーカーの業績温度差

銘柄2026年3月期 売上2026年3月期 営業利益前年比2027年3月期 営業利益(会社予想)増益率
村田製作所(6981)1兆8,309億円2,818億円+0.8%3,800億円+34.8%
TDK(6762)2兆5,048億円2,724億円+21.5%2,950億円+8.3%
太陽誘電(6976)3,553億円200億円+91.2%300億円+50.0%
完成品3社の直近本決算(2026年3月期実績と2027年3月期会社予想。営業利益率は本レポート計算)。出所:各社2026年3月期決算短信(TDnet)

3社とも来期は増益計画ですが、増益率の水準は大きく違います。村田は2026年3月期こそ営業利益がほぼ横ばい(+0.8%)でしたが、来期は+34.8%の大幅増益を計画。太陽誘電は既に営業利益+91.2%・純利益+535.9%と回復色が鮮明です。この差は事業構成で説明できます。村田はMLCCを含むコンポーネント部門が、最新の確報(有価証券報告書2025年3月期)で営業利益率26.6%と全社利益のほぼ全てを稼ぎ、MLCC実需の直撃を最も受けます。一方TDKは主力が二次電池(エナジー応用製品)で、MLCCの全社寄与は相対的に小さく、テーマとしての純度は3社で最も薄くなります。

完成品と材料を横断した2026年3月期の営業利益 前年比。左3社が完成品、右3社が川上材料。材料側はニッカトーだけが突出し、堺化学・日本化学工業はまだ低いか減益にとどまる(戸田工業は純損失・無配のため参考外)(単位: %

出典: 各社2026年3月期決算短信(EDINETベースの前年比)。本レポートによる整理

4.実需が川上に波及する構造 — 3つの仮説

サプライチェーン上の波及をどう読むか、3つの仮説で整理します。これらは本レポート独自の論立てで、特定の出典で『この3つに整理されている』と確認したものではありません。

  1. 恩恵は『完成品 → 材料』の順に時間差で届く … 完成品メーカーがまず値上げと増産投資を決め、必要な誘電体・電極・粉砕媒体の発注が川上に出るのはその後。材料銘柄の決算に実需が表れるのは、完成品より数四半期遅れると推測します。
  2. 『高容量品シフト』は材料の使用量を押し上げる … 高容量MLCCは層数が多く、1個あたりの誘電体・内部電極の量が増えます。太陽誘電はAIサーバー向けに静電容量を従来品比約4.5倍(100μF)に高めた基板内蔵MLCCを商品化しています(ニュースイッチ/Yahoo!ニュース)。ただし高容量化は小型・薄層化も伴うため、材料使用量が層数に単純比例するわけではありません。
  3. 寡占の階層ほど価格交渉力が強い … ハイエンドMLCCは村田とサムスン電機で合計8割超のシェアを握り、2026年第1四半期の両社の稼働率は90%超とされます(TrendForce, 2026/2/24)。内部電極ペーストや粉砕用ジルコニアボールなど寡占度の高い材料は採算改善余地が大きい一方、汎用度が高く供給者の多い材料は採算改善につながりにくいと考えられます。

5.サプライチェーンの追い風マッピング

MLCCの製造工程を、どの材料・工程材が必要かで並べると次のようになります。実需は右(需要)から左(材料)へ、時間差で川上に届きます。

MLCCサプライチェーンの地図。左に材料・工程材(誘電体=チタン酸バリウムの堺化学4078・戸田工業4100・日本化学工業4092・石原産業4028、内部電極=ニッケル粉/ペーストの昭栄化学〈非上場〉・住友金属鉱山5713、工程材=粉砕媒体/焼成炉のニッカトー5367・第一稀元素4082・ノリタケ5331)、中央に完成品MLCC(村田6981・太陽誘電6976・TDK6762)、右に最終需要(AIサーバー・車載EV/ADAS・スマホ)。発注は需要から完成品、材料の順に時間差で川上へ波及する。
工程・部材役割主な上場プレイヤー
誘電体(チタン酸バリウム)電気を貯める層の主材料堺化学工業(4078)、戸田工業(4100、粉体・分散体)、日本化学工業(4092、原料の高純度炭酸バリウム)、石原産業(4028)、テイカ(4027、酸化チタン)
内部電極(ニッケル粉・ペースト)層間の金属膜昭栄化学工業(非上場)、住友金属鉱山(5713、ニッケル粉)
導電性ペースト・電子材料外部電極・電子部品向けペーストノリタケ(5331)
粉砕媒体(ジルコニアボール)原料を微細・均一に砕く工程材ニッカトー(5367)、第一稀元素化学工業(4082、ジルコニア原料)
離型フィルム(工程フィルム)誘電体をシート状に成形する土台フィルム東レ(3402)、東洋紡(3101)、三菱ケミカルG(4188)、帝人(3401)、リンテック(7966)
製造装置(成形・圧着・焼成)積層体を作り焼き固める設備日機装(6376、等方圧プレス)、日本ガイシ(5333、焼成炉)、ノリタケ(5331、焼成炉)
完成品(MLCC本体)最終製品村田製作所(6981)、太陽誘電(6976)、TDK(6762)
MLCC関連の上場プレイヤー(層別。材料区分の列挙はnote・橘龍馬氏のサプライチェーン整理を参考にした本レポートの整理)

チタン酸バリウムが供給不足のMLCC生産に欠かせない素材であることはダイヤモンド・ザイでも、粉砕用ジルコニアボールがMLCC原料の微細化に使われ品質を左右する点はアイメックスの技術解説でも説明されています。

今回の更新で、当初の地図から抜けていた『離型フィルム』と『製造装置』の層、および誘電体原料のテイカ(4027)を追記しました。離型フィルムは誘電体をごく薄いシート状に成形するときの土台となる工程フィルムで、東レの『ルミラー』などが広く使われるとされます(MLCC製造工程の解説)。製造装置では、積層体を高圧で締める等方圧プレスの日機装(6376)や、焼成炉の日本ガイシ(5333)・ノリタケが関わります。

6.銘柄をどう仕分けたか

中心的に取り上げたのは、完成品メーカー3社を起点に、誘電体・内部電極・粉砕媒体など各工程の代表企業を川上へ遡って加えた8つのプレイヤーです(うち昭栄化学工業は非上場)。網羅性を完璧に担保したものではなく、各階層を幅広くカバーすることを優先した、ある程度恣意的な選定であることをお断りしておきます。評価は次の4基準で見ています。

基準内容
① 実需直結度AIサーバー・車載のMLCC需給逼迫が、その銘柄の売上にどれだけ直接効くか
② テーマ純度全社売上に占めるMLCC関連の比率。高いほどテーマ株として素直
③ 業績反映の進み具合実需が既に直近決算に表れているか、これから出てくる段階か
④ 株価位置実需を株価がどこまで先取りしたか(最高値圏か、PBR1倍割れに留まるか)
銘柄評価の4基準(本レポートによる整理)

これらを総合して、以下の4タイプに仕分けました。タイプ分類は本レポート独自の整理で、投資判断のランキングや格付けではありません。次の図は、横軸に『MLCC実需が決算に出たか』、縦軸に『株価がどこまで先取りしたか』を取り、各銘柄の立ち位置を置いたものです。

実需の業績反映と株価位置のマップ。横軸は左がこれから(遅行)・右がMLCC実需が決算に出た、縦軸は下が出遅れ・割安圏・上が株価先取り(最高値圏)。右上『本流・株価先行』に村田6981・太陽誘電6976。右下『業績先行・株価は出遅れ』にニッカトー5367。左上寄りにノリタケ5331。左下『川上・業績遅行』に堺化学4078・戸田工業4100・日本化学工業4092。別枠で、非上場=投資不可の昭栄化学工業(内部電極シェア約40%)と、純度が薄い別事業主導のTDK6762(二次電池)・京セラ6971(多角化)・第一稀元素4082(自動車触媒)・石原産業4028(農薬)。
タイプ銘柄階層
本流・株価先行型村田製作所(6981)、太陽誘電(6976)完成品
川上・業績遅行型堺化学工業(4078)、ニッカトー(5367)材料・工程材
心臓部・寡占型昭栄化学工業(非上場)、住友金属鉱山(5713)内部電極
周辺・純度希薄型TDK(6762)、京セラ(6971)、第一稀元素化学工業(4082)、石原産業(4028)完成品・原料
タイプ別の銘柄一覧(精査後の最終地図)。『階層』と『タイプ』は別軸で、TDKは階層は完成品だがMLCC純度が薄いためタイプは周辺・純度希薄型に置いた

上図と本表の対応を補足します。同じ『川上』でも、ニッカトーは業績反映が先行するため図では右下(業績先行・株価は出遅れ)、堺化学・戸田工業・日本化学工業は遅行のため左下に置いています。ノリタケは業績が安定するなか株価が先に動き始めた材料株で、図では左上寄り(本表では後述の『精査』で加えた扱い)です。周辺・純度希薄型のうち京セラと石原産業は主力が別事業のため、詳細は後段『当初省いた銘柄の精査』で扱います。また、地図に加えた離型フィルム・製造装置・酸化チタン原料の各社も純度が薄いため、周辺・純度希薄型としてまとめて後述します。

7.本流・株価先行型

村田製作所(6981)— 世界シェア首位、実需は直撃も株価は最高値圏

指標2026年3月期実績 → 2027年3月期会社予想
売上高1兆8,309億円 → 1兆9,600億円(予想)
営業利益2,818億円 → 3,800億円(予想、+34.8%)
純利益2,339億円 → 2,930億円(予想)
予想EPS160.96円
村田製作所(6981)。2026年3月期実績 → 2027年3月期会社予想。出所:村田 2026年3月期決算短信

村田はMLCCの世界シェア約40%、車載では約50%を握る首位メーカーです(EE Times Japan)。2027年3月期はAI・データセンター向け売上を前年比85〜90%増で計画していると報じられ(株探, 2026/5/21)、これが全社+34.8%営業増益計画の柱です。一方で株価は2026年5月に上場来高値を更新して時価総額が一時14兆円を突破(株探, 2026/5/29)、6月1日にも一時ストップ高となり株式分割考慮後の上場来高値を更新したと報じられています(日経, 2026/6/1)。実需が本物であることと、その実需を株価がどこまで先取りしたかは別の論点で、後者はバリュエーションの問題として残ります。

注目点:2027年3月期会社予想の前提(AI/DC向け+85〜90%)が四半期決算でどうトレースされるか。実需は会社計画として既に開示済みなので、論点は『計画を上回るか』に移っています。

太陽誘電(6976)— 利益弾力が大きく、回復色が鮮明

指標2026年3月期実績 → 2027年3月期会社予想
売上高3,553億円 → 3,840億円(予想)
営業利益200億円(+91.2%) → 300億円(予想、+50.0%)
純利益148億円(+535.9%) → 180億円(予想)
予想EPS143.94円
太陽誘電(6976)。2026年3月期実績 → 2027年3月期会社予想。出所:太陽誘電 2026年3月期決算短信

太陽誘電は村田より売上規模が小さい分、利益の弾力が大きいのが特徴です。2026年3月期は営業利益+91.2%・純利益+535.9%と一気に伸びました。AIサーバー向けでは基板内蔵MLCCを拡充し、静電容量を従来品比約4.5倍の100μFに高めた製品を投入しています(ニュースイッチ/Yahoo!ニュース)。株価は年初来で約3倍まで買われ(日経)、アナリストの評価は強気・慎重が併存していると報じられています(EBC Financial Group、報道引用)。

注目点:利益弾力が大きい裏返しで、需給が緩む局面では減益方向のブレも大きくなりうる点。2027年3月期の+50%営業増益計画の進捗が焦点です。

8.川上・業績遅行型

この2社が『実需に伴って今後動きうる』候補に近い領域です。ただし、足元の決算で波及が出始めた銘柄(ニッカトー)と、まだ全社業績に出ていない銘柄(堺化学)に分かれます。いずれも小型・中型で値動きが荒くなりやすい点には注意が必要です。

堺化学工業(4078)— 誘電体チタン酸バリウム、電子材料が高採算

指標
売上高(全社)814億円(−3.5%) → 817億円(予想)
営業利益(全社)64.5億円(+5.9%) → 60.0億円(予想、−7.0%)
純利益(全社)27.5億円(−45.1%) → 44.0億円(予想、+59.8%)
電子材料セグメント(2025年3月期)売上100.1億円(+27.5%)、営業利益率14.9%
堺化学工業(4078)。出所:2026年3月期決算短信、電子材料セグメントのみEDINET 有価証券報告書2025年3月期

堺化学はMLCCの誘電体材料チタン酸バリウム(BaTiO₃)を手掛ける化学メーカーです(株式新聞)。全社では2026年3月期の営業利益が+5.9%とわずかな増益にとどまり、来期の会社予想も営業利益−7.0%と慎重(純利益は前期の反動で+59.8%)。営業段階で増益予想を出せていないことが、MLCC材料の追い風がまだ全社の本業利益を明確に押し上げていないことを示します。一方でセグメント単位では、全社売上の約12%にとどまる電子材料が売上+27.5%・営業利益率14.9%と高採算で伸びています。全社は酸化チタン・樹脂添加剤など幅広い事業を抱えるため、MLCC材料の伸びが全社を引っ張りきるには時間がかかる構図です。

注目点:全社のうちMLCC材料(電子材料セグメント)だけがテーマの本体で、全社業績はその他事業に薄まります。2026年6月提出見込みの有価証券報告書で、電子材料の伸びが続いているかを確認したいところです。

ニッカトー(5367)— 粉砕媒体、足元で利益が急回復

指標2026年3月期実績 → 2027年3月期会社予想
売上高113.4億円(+12.5%) → 110.0億円(予想)
営業利益10.7億円(+67.9%) → 11.0億円(予想)
純利益7.8億円(+54.0%) → 8.0億円(予想)
ニッカトー(5367)。出所:2026年3月期決算短信

ニッカトーは、MLCC原料を微細・均一に砕くYTZジルコニアボール(粉砕媒体)を手掛ける小型のセラミックメーカーです。粉砕媒体の品質がMLCCの出来を左右する工程材で(アイメックス技術解説)、村田など完成品メーカーの製造を支える位置にあると個別株分析でも紹介されています(note・日本個別株デューデリジェンスセンター)。ポイントは業績の転換です。2025年3月期は営業利益が約−30%と減速していましたが、2026年3月期は売上+12.5%・営業利益+67.9%と急回復しました。ただしこの+67.9%は前期の落ち込みからの反動という側面もあり、純粋にMLCC実需の波及だけによるものかは次期決算での切り分けが必要です。それでも仮説1の『材料への波及は完成品より数四半期遅れる』構造とは整合的で、川上の工程材にも実需が決算に乗り始めた初期段階と読めます。

注目点:粉砕媒体は消耗品なので、完成品メーカーが増産に入れば交換需要として効いてきます。会社予想は横ばい(+2.7%)で、2026年3月期の急回復が続くかが実需波及の持続性を測るシグナルです。

9.心臓部・寡占型

昭栄化学工業(非上場)— 内部電極ニッケルの世界シェア約40%

この階層の本丸が昭栄化学工業です。MLCCの内部電極に使うニッケル粉・ニッケルペーストで世界シェア約40%を持ち、金属粉とペーストを自社で一貫生産する点が強みとされます(昭栄化学工業 採用サイト)。内部電極用ニッケルペースト市場は上位数社の寡占で、規模は2025年に約28.6億ドル、2032年まで年率7%超で成長する見通しとされます(Global Information/QYResearch)。内部電極は仮説3の『寡占の材料階層』の典型で、高容量化はニッケル電極の使用量増に直結する実需の本丸の一つです。ただし昭栄化学工業は非上場のため、直接の投資対象にはなりません。 上場で内部電極に関与するのは次の住友金属鉱山(ニッケル粉)など限られ、『内部電極の純粋なプレイは上場株では取りにくい』というのが実態です。

住友金属鉱山(5713)— ニッケル粉を供給するが主力は資源・製錬

住友金属鉱山はMLCC内部電極向けニッケル粉も手掛けますが、全社では銅・ニッケルの資源開発と製錬、車載電池材料が主力で、MLCC材料の全社寄与は限定的です。MLCC実需よりも非鉄市況(銅・ニッケル価格)の影響を強く受けるため、テーマ株としての純度は薄く、株価ドライバーは別物である点に注意が必要です。

10.周辺・純度希薄型

TDK(6762)— 完成品3社で売上最大だが主力は二次電池

TDKは2026年3月期に売上2兆5,048億円(+13.6%)・営業利益2,724億円(+21.5%)と好調でしたが、来期の営業増益率は+8.3%予想と3社で最も緩やかです(2026年3月期決算短信)。主力がスマホ・データセンター向けの二次電池(エナジー応用製品)で、MLCCの全社寄与が小さいためです。MLCCテーマというより『AI・データセンターの電源/電池』テーマで読むほうが素直な銘柄です。

第一稀元素化学工業(4082)— 主力は自動車触媒

第一稀元素はジルコニア化合物のメーカーで、MLCC関連でも名前が挙がりますが、主力は自動車の排ガス触媒用ジルコニアです。2025年3月期は売上336億円・営業利益22.8億円ながら、為替差損などで経常利益は6.3億円に沈みました(EDINET 有価証券報告書2025年3月期)。MLCC実需が業績を動かす度合いは限定的で、自動車触媒の需要動向の方がインパクトは大きいという整理です。

工程フィルム・製造装置・原料 — 地図には載るが連想寄り

今回の更新でサプライチェーンを漏れなく描くために加えた、離型フィルム(東レ・東洋紡・三菱ケミカルG・帝人・リンテック)、製造装置(日機装・日本ガイシ)、誘電体原料の酸化チタン(テイカ)も、この周辺・純度希薄型に入ります。いずれもMLCC以外の事業が大きく、業績がMLCC需給で動く度合いは小さいため、本レポートでは個別の深掘りはせず、地図上の位置づけにとどめます。見るべきは、各社の決算でMLCC・電子材料向けの設備投資や売上が具体的に語られ始めるかどうかで、そこが確認できて初めて『連想』が『実需』に変わります。他の巨大企業に比べれば事業規模が小さいリンテックや日機装あたりは、MLCC向けの動きが相対的に業績へ表れやすいと考えられ、その兆候を確認しやすい層と言えます。

11.当初省いた銘柄の精査 — 見落としと地図の修正

公開後、当初『含めなかった』京セラ・戸田工業・日本化学工業・ノリタケを個別に精査したところ、地図の修正が必要な点と、新たに漏れていた銘柄が見つかりました。透明性のため記録します。

最大の見落とし:ノリタケ(5331)は焼成炉だけの銘柄ではなかった。 当初は『焼成炉・セッター』の設備銘柄として扱いましたが、これは過小評価でした。ノリタケはMLCC向けの導電性ペーストなど電子材料を手掛け(ノリタケ 製品情報)、この材料を増産するため約130億円を投じて生産能力を2026年度までに3〜4倍へ引き上げる計画と報じられています(アセットアライブ)。2026年3月期は売上1,429億円(+3.4%)・営業利益111億円(+8.8%)・純利益142億円(+9.6%)と安定増益で(決算短信)、MLCC材料を含むセラミック・マテリアル事業は営業利益率14.5%(2025年3月期)と高採算です。株価も6月1日にストップ高で新高値をつけ、株探は『MLCC関連の出遅れとして物色向かう』と報じています(株探, 2026/6/1)。本来もっと前面に出すべき候補でした。

戸田工業(4100):チタン酸バリウムは本物だが財務が痛んでいる。 MLCCの小型・高容量化に向けた高品質チタン酸バリウム粉体・分散体を供給し、誘電体材料の担い手であることは確認できました(戸田工業 中期計画ダイヤモンド・ザイ)。ただし2026年3月期は売上280億円(−11.4%)・純利益−34.6億円の大幅赤字で無配、自己資本比率は18.9%まで低下しました(決算短信)。電子素材セグメントは2025年3月期に売上+30.4%と伸びた一方で営業利益は−52.7%と採算が悪化。『チタン酸バリウムを作っている=テーマの恩恵で安泰』とは言えない財務状態で、テーマ性と財務の健全性は別問題だという例です。

日本化学工業(4092):高純度炭酸バリウムの原料メーカー、足元は営業減益。 チタン酸バリウムの原料となる高純度炭酸バリウムを手掛け(日本化学工業 製品情報)、誘電体の『原料の原料』という川上のさらに川上に位置します。2026年3月期は売上402億円(+3.4%)ながら営業利益24.1億円(−27.7%)・経常も−25.8%と本業は減益で、純利益28.9億円(+13.1%)のみ特別損益・税負担の差で増益です(決算短信)。足元の業績にブームはまだ表れていません。

京セラ(6971):除外は妥当。 MLCCを電子部品セグメントで手掛けますが、同セグメントは全社売上の17.6%(2025年3月期)で営業損益は赤字でした(コアコンポーネントも赤字)。2026年3月期の全社営業利益は+332.8%と急増しましたが、これは前期の特殊要因の反動が主因で、MLCC実需が牽引したものではありません(決算短信)。多角化でMLCCの全社寄与が薄いという当初の除外理由は妥当でした。

新たに漏れていた銘柄:石原産業(4028)。 公開時点の地図から漏れていました。酸化チタン大手で、MLCC原料チタン酸バリウムの生産能力を約2倍に拡大すると報じられています(アセットアライブ)。ただし2026年3月期は売上1,549億円(+6.7%)・営業利益191億円(+82.0%)と大幅増益でも、稼ぎ頭は農薬を含む有機化学(営業利益率18.4%)で、MLCC用チタン酸バリウムは低採算の無機化学(同2.2%)の一部にすぎません(決算短信)。会社の2027年3月期予想は営業利益142億円(−25.6%)と大幅減益見通し。業績ドライバーは農薬・酸化チタン市況で、テーマの本命というより連想銘柄に近い『周辺・純度希薄型』でした。

12.データから読み取れる注意点

  1. 完成品は実需を株価が大きく先取りしている。 村田は時価総額が一時14兆円を突破して上場来高値を更新し6月1日も一時ストップ高、太陽誘電は年初来約3倍です。実需の強さと、それを株価がどこまで先取りしたかは別問題として残ります。
  2. 川上材料への波及は業績と株価でズレている。 材料側の決算はニッカトーが+67.9%と波及が出始めた一方、堺化学は全社純利益−45.1%・戸田工業は純損失・日本化学は営業減益と多くがまだ。にもかかわらず株価ではノリタケがストップ高になるなど、業績に表れる前に動いた例が出ています。『遅行を取りに行く』発想は、波及の時間差・回復の持続性・株価が既に先行し始めている点と表裏一体です。
  3. テーマ純度には大きな差がある。 堺化学はMLCC材料が全社売上の約12%、住友金属鉱山・第一稀元素・TDK・京セラ・石原産業(主力は農薬)は主力事業が別。さらに内部電極の本命・昭栄化学は非上場でそもそも投資対象になりません。テーマ連想で動く局面と、業績が実際にMLCCで動く局面は分けて見る必要があります。

半導体サイクルの反転・為替・中国勢の台頭による競争激化なども想定できますが、本レポートの出典範囲では銘柄ごとに定量化できないため列挙は控えます。次回、各社の四半期決算が揃った段階で改めて検証します。

13.まとめ

MLCCのAIサーバー向け需給逼迫は、リードタイム26〜40週・引き合いが供給能力の2倍という数字が示すとおり実需として本物で、村田の2027年3月期+34.8%・太陽誘電の+50%営業増益計画にも表れています。サプライチェーンを4階層に仕分けて見えてきたのは、実需の強さは全階層に共通でも、それが『業績と株価のどちらに、いつ表れるか』は階層で大きくズレている という構図です。完成品(村田・太陽誘電)は業績・株価とも既に反応し、論点はバリュエーションに移りました。川上では銘柄ごとに進度が分かれ、ニッカトーは決算に波及が出始めた一方、堺化学・戸田工業・日本化学工業はまだ全社業績に出ていません。

銘柄の地図は精査でさらに解像度が上がりました。『焼成炉銘柄』と過小評価していたノリタケは、MLCC材料に約130億円投資・能力3〜4倍計画で足元ストップ高となり、川上でもっと前面に置くべき候補でした。一方でチタン酸バリウムの石原産業は、地図に加えたものの精査すると業績は農薬主導で純度は低い連想銘柄でした。次の確認ポイントは、各社の四半期決算で材料セグメントの受注・採算が反転に向かうか、完成品メーカーの値上げが新規出荷に乗って利益率をさらに押し上げるかです。四半期開示が出そろう段階で本レポートを更新します。

参考リンク

本レポートは公開情報に基づく分析であり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。

本レポートは生成AI (Claude) を用いて作成されており、データの引用・計算・解釈に誤りが含まれている可能性があります。重要な数値については一次資料 (各社IR・決算短信・有価証券報告書等) でご確認ください。

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