ディスコ(6146) FY2025 Q4決算予測分析
Xでシェアディスコ(6146)のFY2025 Q4決算を、Q3決算資料・補足情報・4/6速報値(個別売上高・出荷額)を踏まえて予測。過去7四半期の連結/個別比率から連結売上・営業利益を推計し、中央シナリオで売上1,240億円・営業利益534億円(会社予想比+16%上振れ)、通期は初の売上4,000億円超え・6期連続最高益を見込む。一方、株価はPER 62.5倍・PBR 14.6倍と歴史的高バリュエーション。過去10四半期の決算翌日リターン実測分布(平均-0.46%、下落6勝4敗)を加味した経験確率ブレンドで、決算またぎの期待値は-2.9%と試算。保有状況別の投資判断を整理した個別株レポート。
関連テーマ
分析日: 2026年4月21日 | 決算発表予定日: 2026年4月22日(水)
要点サマリー
- Q4連結業績(中央予測): 売上高1,240億円、営業利益534億円、営業利益率43.1%。会社予想(売上1,152億円、営業利益459億円)に対し売上+7.6%、営業利益+16.3%の上振れが中心ケース。
- FY25通期連結業績(中央予測): 売上高4,278億円、営業利益1,796億円。初の売上4,000億円超え、6期連続の最高益更新がほぼ確実。
- 4月6日発表の速報値で通期個別売上高は会社予想を+3.4%上振れ、Q4個別出荷額は前年同期比+28.2%の記録的水準。AI需要の強さを示す客観的シグナル。
- 株価(4/17終値72,900円)はPER 62.5倍・PBR 14.6倍と歴史的高値圏。52週安値から+222%の急騰で、好決算への期待は相応に織り込み済み。
- 投資判断: バリュエーション水準と過去10四半期の決算翌日リターン実測(平均-0.46%、下落6勝4敗) を踏まえると、決算またぎの新規買いは期待値マイナス(推定-2.9%)。業績は良好でもマルチプル圧縮リスクの方が大きい局面。
会社概要とビジネスモデル
ディスコは半導体後工程向けの精密加工装置(ダイサ、レーザソー、グラインダ、周辺装置)と精密加工ツール(消耗品の砥石・ブレード等)を製造・販売する専業メーカー。3月期決算。
収益構造(FY25 Q3の出荷額ベース)
| 区分 | 構成比 | 特徴 |
|---|---|---|
| 精密加工装置 | 61% | ダイサ28%、グラインダ30%、周辺装置3%。設備投資サイクルに連動 |
| 精密加工ツール | 22% | 消耗品。稼働中装置のスループットに連動(安定収益源) |
| その他(部品・メンテナンス) | 17% | — |
海外売上比率91.5%、うちアジア向けが79%と、世界の半導体製造装置市場全体の動向に連動する構造。生成AI需要拡大に伴うHBM(広帯域メモリ)・先端ロジック向けの後工程装置で高い市場シェアを持つ。
会計方針上の留意点
- 装置売上は検収ベース(2019年度方針変更以降): 顧客での装置据付・検収が完了した時点で売上計上されるため、タイミング変動が大きい。
- ツール・部品売上は出荷ベース: 稼働中装置の需要に連動。
- 「出荷額」は売上の先行指標として機能。装置出荷から検収まで数ヶ月のラグがあるため、出荷額の強さが1〜2四半期後に売上高に表れる。
- Q4(1-3月)は年度末検収が集中する季節性があり、通常四半期より売上が跳ねやすい。
四半期業績の実績データ
連結ベースの主要P/L項目(単位:億円)。FY25 Q4は会社予想値。
| 指標 | FY24 Q1 | Q2 | Q3 | Q4 | FY25 Q1 | Q2 | Q3 | Q4予想 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 828 | 962 | 936 | 1,207 | 899 | 1,046 | 1,093 | 1,152 |
| 売上総利益 | 577 | 691 | 666 | 842 | 613 | 727 | 781 | 〜806 |
| 売上総利益率 | 69.7% | 71.7% | 71.2% | 69.8% | 68.1% | 69.5% | 71.4% | 〜70% |
| 販売管理費 | 243 | 265 | 275 | 325 | 268 | 284 | 307 | 〜347 |
| 営業利益 | 334 | 426 | 391 | 517 | 345 | 444 | 473 | 459 |
| 営業利益率 | 40.3% | 44.2% | 41.8% | 42.9% | 38.3% | 42.4% | 43.3% | 39.8% |
| 純利益 | 237 | 297 | 318 | 386 | 238 | 321 | 367 | 338 |
| 連結出荷額 | 1,011 | 976 | 1,103 | 925 | 1,111 | 964 | 1,137 | 1,169 |
| 想定USD | 158 | 147 | 154 | 151 | 144 | 148 | 156 | 154 |
| 想定EUR | 170 | 162 | 164 | 159 | 166 | 172 | 181 | 181 |
FY25 Q3実績のハイライト: 売上高1,093億円(前年同期比+16.8%)、営業利益473億円(同+20.9%)、売上総利益率71.4%(四半期ベースで過去2番目)、営業利益率43.3%、連結出荷額1,137億円(過去最高)。直近の業績モメンタムは極めて強い。
4月6日発表の速報値が示すもの
ディスコは4月6日付でFY2025通期の個別(親会社単体)売上高と出荷額の速報値を開示。決算発表に先駆けて市場に事業進捗を伝える、毎四半期恒例の開示である。
個別業績の四半期推移(単位:億円)
| 指標 | FY24 Q3 | Q4 | FY25 Q1 | Q2 | Q3 | Q4 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 個別売上高 | 773 | 1,025 | 754 | 853 | 880 | 1,049 |
| 前年同期比 | — | — | +10.1% | +2.5% | +13.8% | +2.3% |
| 前期比 | — | — | — | +13.1% | +3.1% | +19.2% |
| 個別出荷額 | 908 | 766 | 930 | 774 | 901 | 981 |
| 前年同期比 | — | — | +8.5% | -8.5% | -0.8% | +28.2% |
| 前期比 | — | — | — | -16.7% | +16.3% | +9.0% |
速報値のポイント
ポジティブな材料
- 通期個別売上高3,538億円が会社予想3,421億円を**+3.4%上回る**着地(年初来の修正を経た直近予想すら超過)
- Q4個別出荷額981億円は**前年同期比+28.2%、前期比+9.0%**で、生成AI向け装置・ツールの堅調さが鮮明
- 通期個別出荷額3,588億円は6期連続の過去最高を更新
- 前年Q4(FY24 Q4)の個別出荷額が766億円と底だった反動もあり、前年比の伸びが際立つ
ニュートラル〜注意材料
- Q4個別売上高の前年比+2.3%は一見緩やかだが、これは検収ベース会計のラグによるもので、出荷額の強さが今後の売上に反映される見込み
- Q4個別出荷額の前期比+9%は、Q3の+16%と比べると伸び率は減速しており、出荷モメンタムはピーク圏との見方もできる
- 会社のQ4連結売上見通し1,152億円は前年同期比-4.6%と保守的設定であり、個別売上の前年比+2.3%と乖離が大きい → 連結側で会社は大きな保守バッファを積んでいる可能性
連結/個別比率を用いたQ4連結業績の推計
ディスコは連結売上・営業利益の四半期先行開示を行わないため、速報で開示された個別数値から連結数値を推計する手法を採る。過去7四半期の連結/個別比率を確認する。
| 期 | 個別売上 | 連結売上 | 連結/個別比率 | 個別出荷 | 連結出荷 | 連結/個別比率 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| FY24 Q1 | 685 | 828 | 1.209 | 857 | 1,011 | 1.180 |
| FY24 Q2 | 833 | 962 | 1.155 | 846 | 976 | 1.154 |
| FY24 Q3 | 773 | 936 | 1.211 | 908 | 1,103 | 1.215 |
| FY24 Q4 | 1,025 | 1,207 | 1.178 | 766 | 925 | 1.208 |
| FY25 Q1 | 754 | 899 | 1.192 | 930 | 1,111 | 1.195 |
| FY25 Q2 | 853 | 1,046 | 1.226 | 774 | 964 | 1.245 |
| FY25 Q3 | 880 | 1,093 | 1.242 | 901 | 1,137 | 1.262 |
| 過去7四半期平均 | — | — | 1.202 | — | — | 1.208 |
| FY25平均(3四半期) | — | — | 1.220 | — | — | 1.234 |
注目すべき変化: FY25に入り連結/個別比率が上昇傾向(1.19 → 1.23 → 1.24)にある。これは海外子会社経由での販売比率の高まり、および為替効果(円安維持)が重なった結果と推察される。
Q4連結売上高の予測
Q4個別売上1,049億円に上記比率を適用:
- 保守シナリオ(比率1.18、FY24 Q4と同水準): 約1,238億円
- 中央シナリオ(比率1.20、過去平均): 約1,259億円
- 楽観シナリオ(比率1.22、FY25直近平均): 約1,280億円
いずれのシナリオでも会社予想1,152億円を+7〜11%上回る。またQ4連結出荷額は、個別981億円に比率1.21を適用して約1,187億円(会社予想1,169億円比+1.5%)と推計。
Q4連結業績の3シナリオ予測
売上総利益率と販売管理費の想定を加えて、営業利益まで算出する。
想定の前提
- 売上総利益率: Q3の71.4%から、製品ミックス変化(Q4はダイサ+25%・周辺装置+80%・グラインダ-10%と会社見通し)によりやや低下し、70〜71%を想定
- 販売管理費: 会社計画値は約347億円(Q3の307億円から+13%)。ただし会社は例年Q4に販管費を厚めに計上する傾向があるため、実績は330〜350億円のレンジ
シナリオ別予測
| 指標(億円) | 保守 | 中央 | 楽観 | 会社予想 | 前年Q4実績 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 1,200 | 1,240 | 1,280 | 1,152 | 1,207 |
| 売上総利益率 | 69.0% | 70.5% | 71.5% | 〜70% | 69.8% |
| 売上総利益 | 828 | 874 | 915 | 〜806 | 842 |
| 販管費 | 345 | 340 | 335 | 〜347 | 325 |
| 営業利益 | 483 | 534 | 580 | 459 | 517 |
| 営業利益率 | 40.3% | 43.1% | 45.3% | 39.8% | 42.9% |
| 純利益 | 355 | 393 | 427 | 338 | 386 |
| 連結出荷額 | 1,170 | 1,190 | 1,220 | 1,169 | 925 |
| 対会社予想(売上) | +4.2% | +7.6% | +11.1% | — | — |
| 対会社予想(営利) | +5.2% | +16.3% | +26.4% | — | — |
| 前年比(売上) | -0.6% | +2.7% | +6.0% | -4.6% | — |
| 前年比(営利) | -6.6% | +3.3% | +12.2% | -11.2% | — |
中央シナリオの着地: 売上1,240億円、営業利益534億円、営業利益率43.1%。会社予想営業利益459億円に対し+16%程度の上振れが最も蓋然性が高いケース。
通期FY25連結業績の見通し
Q1〜Q3累計実績に中央シナリオを加算:
| 指標(億円) | Q1〜Q3累計 | Q4中央予測 | 通期予測 | 会社予想 | 対会社予想 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 | 3,038 | 1,240 | 4,278 | 4,190 | +2.1% |
| 営業利益 | 1,262 | 534 | 1,796 | 1,721 | +4.4% |
| 純利益 | 927 | 393 | 1,320 | 1,264 | +4.4% |
| 連結出荷額 | 3,212 | 1,190 | 4,402 | 4,381 | +0.5% |
初の売上高4,000億円超え、6期連続の最高益更新がほぼ確実な見通し。
FY2026(来期)の見通し
ディスコは1四半期先までしか業績予想を開示しない方針のため、4月22日の決算発表ではFY26通期予想は出ず、FY26 Q1(4-6月期)予想のみが開示される。
FY26 Q1予想
過去のQ4 → Q1の季節性(前期比-25%前後)と直近の出荷モメンタムを考慮:
- 保守: 950億円(会社の保守的ガイダンスパターンを踏襲)
- 中央: 1,000億円(直近の出荷増を反映)
- 楽観: 1,050億円(AI関連需要の加速継続)
市場コンセンサスは1,000億円前後とみられる。会社ガイダンスが1,000億円を明確に上回れば好感、950億円未満なら失望反応が出やすい構図。
FY26通期の方向感(市場期待)
AI関連需要の継続、HBM次世代品(HBM4)の本格生産、TSMC・Samsungの設備投資継続を前提とした場合の市場期待レンジ:
- 売上高: 4,700〜5,100億円(前年比+10〜20%)
- 営業利益: 2,000〜2,200億円
- ただし広島新工場・羽田R&Dセンター関連の減価償却費増加(FY25約150億円 → FY26は170〜180億円想定)により、利益率は一時的に低下圧力
主なリスク要因
- メモリサイクルの在庫調整局面入り(HBMは2026年下期が節目との見方)
- 米国の対中半導体輸出規制強化(ディスコのアジア売上79%のうち中国向けが約34%)
- 半導体装置セクター全体のバリュエーション調整
株価とバリュエーション
現在の株価指標(2026年4月17日終値ベース)
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 株価 | 72,900円 |
| 前日比 | -130円(-0.18%) |
| 時価総額 | 7兆9,080億円 |
| PER(会社予想ベース) | 62.5倍 |
| PBR(実績) | 14.6倍 |
| 配当利回り(予想) | 0.60% |
| 52週安値 | 22,640円(2025年4月7日) |
| 年初来高値 | 72,070円(2026年1月29日) |
バリュエーションの特徴
バリュエーションは歴史的にも他社比でも高水準。
- 株価は52週安値22,640円から約3.2倍(+222%)に急騰し、年初来高値圏で推移。
- PER 62.5倍はディスコの過去レンジ(20〜35倍)の約2倍。PBR 14.6倍も半導体装置セクターとして極めて高い水準(同業他社は概ね2〜5倍)。
- 中央シナリオ通りに着地した場合の決算後PERは約60倍、FY26想定EPS(1,400〜1,550円レンジ)ベースのフォワードPERは46〜53倍。
- 同業他社との比較(フォワードPER): TSMC約23倍、ASML約31倍、東京エレクトロン約25倍。ディスコは圧倒的なプレミアムで取引されている。
バリュエーションが意味するもの
市場は既に以下を織り込んでいると解釈できる:
- AI需要の持続的な拡大(今後数年のスーパーサイクル)
- HBM・先端ロジック後工程における独占的な市場ポジション
- 営業利益率40%超の高収益性の継続
したがって、決算が好調でもこれらの前提を「さらに上方修正」するサプライズが必要であり、単に「期待通りの好決算」では株価上昇の燃料とはなりにくい構造。逆に、いずれか1つでも綻びが見えればマルチプル圧縮(PERの切り下げ)による大きな下落リスクが存在する。
決算発表で注目すべきポイント
| 優先度 | 確認項目 | 判断基準 |
|---|---|---|
| 最重要 | 連結営業利益の絶対額 | 500億円超で中央線、540億円超で上振れ、460億円未満で下振れ |
| 最重要 | 売上総利益率 | 70%以上維持なら強い、69%未満は懸念 |
| 最重要 | FY26 Q1売上ガイダンス | 1,000億円以上なら好感、950億円未満は失望 |
| 重要 | 期末配当(追加配当含む) | 308円以上で想定線、320円超で上振れ |
| 重要 | 連結出荷額 | 1,200億円以上で強い、1,169億円未満ならやや懸念 |
| 重要 | FY26の設備投資・減価償却計画 | 減価償却180億円超なら利益率圧迫 |
| 重要 | AI関連需要への経営陣コメント | 生成AI向けが引き続き牽引との説明があるか |
| 参考 | 地域別売上構成(中国比率) | 中国比率30%台維持か、政策リスク言及の有無 |
| 参考 | 契約負債の増減 | 契約負債の減少は先行指標として需要ピークの示唆となる場合がある |
投資判断の論点整理
決算サプライズ余地の切り分け
| 項目 | 4/6速報で判明済 | 4/22決算で未開示 | サプライズ余地 |
|---|---|---|---|
| 個別売上・個別出荷額 | ○ | — | なし |
| 連結売上高 | 比率から推定可能 | 正式発表 | 中(会社予想比+4〜11%の上振れ想定) |
| 連結売上総利益率・営業利益率 | — | ○ | 大(会社予想の保守性) |
| 連結営業利益 | — | ○ | 大(会社予想比+5〜26%の上振れ想定) |
| 期末配当 | — | ○(会社予想308円) | 中(余剰資金次第で上振れ余地) |
| FY26 Q1ガイダンス | — | ○ | 大(1,000億円ラインが分水嶺) |
| AI需要・事業環境コメント | — | ○ | 中 |
4/6速報で個別数値の大枠が判明したため、決算当日の材料は (a) 連結営業利益率の水準、(b) FY26 Q1ガイダンス、(c) 期末配当の上乗せ余地、(d) 経営陣のFY26見通しコメント の4点に集約される。
ポジティブ要因の整理
- 連結営業利益の上振れ確度が高い: 中央シナリオで会社予想比+16%の上振れ。会社の保守的な販管費計画が実績で崩れれば明確な好決算となる。
- 6期連続最高益更新がほぼ確実: 売上高4,000億円超えの記念碑的決算となる見込み。
- Q4個別出荷額の前年比+28.2%: AI関連需要の強さを示す客観的データ。
- 期末配当の上乗せ余地: Q3時点で年度末余剰資金470億円(会社試算)。Q4営利上振れで500億円超に拡大すれば、追加配当(会社予想145円)の上乗せ可能性が高まる。
- 広島新工場・羽田R&Dセンターの建設継続: 中長期の供給能力拡大ストーリーを支える。
- 株主還元方針: 業績連動配当25% + 安定配当 + 余剰資金の1/3の3段階還元により、高収益時には自動的に配当が増加する構造。
ネガティブ要因の整理
- 株価のバリュエーション水準: PER 62.5倍・PBR 14.6倍は歴史的高水準。好決算も相当程度織り込み済み。
- Q4個別売上の前年比+2.3%: 成長率の鈍化感。
- 出荷モメンタムの減速: Q4個別出荷の前期比+9%はQ3の+16%から鈍化。ピーク圏に近づいている可能性。
- FY26 Q1ガイダンスの保守性リスク: 会社は一貫して保守的ガイダンスを提示するパターン。この傾向を市場は学習済みだが、PER 62倍の水準では「保守的ガイダンスでも売られる」展開が起こりうる。
- 中国向け売上比率34%: 米中貿易摩擦・先端装置の輸出規制強化が中期的な不確実性。
- 販管費の構造的増加: 人件費・R&D・新工場準備に伴うコスト増で、営業利益率42〜43%帯からの持続的な改善は見込みにくい。
- セクター全体のボラティリティ: 半導体装置株は市場全体のセンチメントに左右されやすく、好決算でも地合い次第で下落リスク。
株価反応シナリオと期待値試算
ここでは決算翌日の株価がどう動くかを4つのシナリオに分けて、その起こりやすさ(確率) と株価の振れ幅を見積もり、期待値を計算する。手順は以下の通り。
- 4つのシナリオを定義 — 業績・ガイダンスの組み合わせと、それに対する株価反応の想定幅を決める
- 確率の推定方法を説明 — 定性判断(主観確率)と過去実績(経験確率)をどう組み合わせるか
- 過去10四半期の決算翌日リターンを集計 — 客観データで「実際にどう動いてきたか」を確認
- 4シナリオに過去実績を当てはめる — 経験的な発生頻度を算出
- 最終確率と期待値を決定 — 主観と経験をブレンドした確率で期待値を計算
ステップ1: 4つのシナリオ定義
決算内容と株価反応の組み合わせを4段階に分けて定義する。
| シナリオ | 決算・ガイダンスの内容 | 株価反応の想定幅 | 反応の中央値 |
|---|---|---|---|
| A. 強気 | Q4営業利益540億円超 + FY26 Q1ガイダンス1,000億円超 + 追加配当上乗せ | +3% 〜 +7% | +5% |
| B. 中立プラス | Q4営業利益500〜540億円 + FY26 Q1ガイダンス1,000億円前後 | -2% 〜 +3% | 0%(材料出尽くし) |
| C. 中立マイナス | Q4営業利益480〜510億円 + FY26 Q1ガイダンス950〜1,000億円 | -5% 〜 -10% | -7.5%(マルチプル圧縮) |
| D. 弱気 | Q4営業利益460〜480億円 + FY26 Q1ガイダンス950億円未満 | -12% 〜 -20% | -16% |
ステップ2: 確率の推定方法
単に「直感で確率を割り振る」では恣意性が残るため、以下の2つを組み合わせて確率を推定する。
- 主観確率: 4/6速報値の強さ、バリュエーション水準、過去のガイダンス傾向などを考慮した定性判断
- 経験確率: 過去10四半期の決算翌日リターンを上記4シナリオに当てはめた実績頻度(Laplace平滑化で小サンプルを補正)
両者を50:50で加重平均したものをブレンド確率として採用する。
ステップ3: 過去10四半期の決算翌日リターン
ディスコの直近10回の決算発表について、発表当日終値から翌営業日終値までの株価変動を集計した。
| 決算 | 発表日 | 発表日終値 | 翌営業日終値 | 翌日リターン |
|---|---|---|---|---|
| FY23 Q2 | 2023-10-19 | 28,405円 | 28,000円 | -1.43% |
| FY23 Q3 | 2024-01-24 | 40,730円 | 41,480円 | +1.84% |
| FY23 Q4 | 2024-04-25 | 47,080円 | 46,010円 | -2.27% |
| FY24 Q1 | 2024-07-18 | 55,260円 | 52,700円 | -4.63% |
| FY24 Q2 | 2024-10-17 | 35,580円 | 38,310円 | +7.67% |
| FY24 Q3 | 2025-01-23 | 50,860円 | 47,430円 | -6.74% |
| FY24 Q4 | 2025-04-17 | 26,530円 | 26,760円 | +0.87% |
| FY25 Q1 | 2025-07-17 | 46,970円 | 42,840円 | -8.79% |
| FY25 Q2 | 2025-10-29 | 56,390円 | 51,760円 | -8.21% |
| FY25 Q3 | 2026-01-21 | 58,570円 | 68,570円 | +17.07% |
基礎統計量
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 平均リターン | -0.46% |
| 中央値 | -1.85% |
| 標準偏差 | 7.56% |
| 最大 | +17.07%(FY25 Q3) |
| 最小 | -8.79%(FY25 Q1) |
| 下落回数 | 10回中6回(60%) |
実績データから読み取れること
- 決算後リターンは平均的にわずかに負(平均-0.46%、中央値-1.85%)。「材料出尽くし」傾向がディスコにおいて構造的に存在する。
- 高バリュエーションの局面ほど失望反応が大きい傾向: FY25 Q1/Q2の2連続-8%台下落は、株価が直前高値圏で迎えた決算で発生。
- 唯一の大幅上昇(FY25 Q3の+17%)は割安水準での好決算: 直前に株価が-44%調整(56,390円 → 51,760円付近)した局面で発生しており、高値圏での同じ決算では起こりにくい。
- ±5%超の大きな動きが10回中5回: 決算は単純な「中央に収束する」イベントではなく、上下に振れやすい。
ステップ4: 過去実績を4シナリオに当てはめる
ステップ1で定義したシナリオの株価反応の想定幅に、ステップ3の10件の実績を振り分ける。
| シナリオ | 株価反応の想定幅 | 該当した実績 | 件数 | 経験頻度 |
|---|---|---|---|---|
| A. 強気 | +3%以上 | 2024-10-17(+7.67%), 2026-01-21(+17.07%) | 2件 | 20% |
| B. 中立プラス | -2% 〜 +3% | 2023-10-19(-1.43%), 2024-01-24(+1.84%), 2025-04-17(+0.87%) | 3件 | 30% |
| C. 中立マイナス | -10% 〜 -2% | 2024-04-25, 2024-07-18, 2025-01-23, 2025-07-17, 2025-10-29 | 5件 | 50% |
| D. 弱気 | -10%以下 | 該当なし | 0件 | 0% |
注目点: 過去10四半期では、「中立マイナス(C)」が半分(50%)を占める最頻シナリオ。一方で「弱気(D、-10%以下)」は一度も発生していない。ただしサンプル数10は統計的には少ないため、ステップ5では小サンプル補正を施す。
ステップ5: 最終確率と期待値
経験頻度にLaplace平滑化(各シナリオに+1件の仮想サンプルを加算し、分母を10+4=14に増やす補正)を施し、主観確率と50:50で加重平均する。
| シナリオ | 経験頻度 | 平滑化後経験確率 | 主観確率 | ブレンド確率 | 反応中央値 |
|---|---|---|---|---|---|
| A. 強気 | 20% | 21.4% | 25% | 23% | +5% |
| B. 中立プラス | 30% | 28.6% | 35% | 32% | 0% |
| C. 中立マイナス | 50% | 42.9% | 30% | 36% | -7.5% |
| D. 弱気 | 0% | 7.1% | 10% | 9% | -16% |
加重平均期待値の計算
0.23 × (+5.0%) + 0.32 × (0.0%) + 0.36 × (-7.5%) + 0.09 × (-16.0%) = -2.9%
期待値が示すもの
- 上値目処: 約77,500円(現在比+6%、強気シナリオA実現時)
- 下値リスク: 58,000〜64,000円(-12〜-20%、弱気シナリオD実現時)
- リスク/リワード: 下値リスクが上値余地の約2〜3倍で非対称。過去実績でも±5%超の大きな動きの内訳は上振れ2回に対し下振れ3回と、下方に歪んでいる。
- 結論: 期待値は-2.9%、最頻シナリオは「中立マイナス(マルチプル圧縮で-5〜-10%)」。決算またぎの新規買いはリスク/リワード比の観点から推奨しづらい。
総合判断
業績そのものは良好(最高益更新・会社予想+16%上振れ)だが、株価バリュエーションが既に織り込み済みの水準にあり、過去10四半期の実測分布も「決算後は平均的に下落」を示しているため、決算またぎの投資期待値はマイナスというのが本分析の結論。
保有状況別の推奨スタンス
| 保有状況 | 推奨スタンス |
|---|---|
| 既に長期保有(含み益大) | 一部利益確定を検討。短期の-15〜-20%下落を許容できる場合のみフルホールド |
| 新規購入検討中 | 決算またぎの買いは見送り推奨。決算後の値動きを確認してから判断 |
| 押し目買いの機会を探る | シナリオC/Dで65,000円台以下まで下落した場合が有力な買いタイミング |
戦術的選択肢(上級者向け): 現物保有者は、プットオプション購入による下値ヘッジや、現物の一部売却+コール購入へのリプレースで、上値余地を残しつつ下値リスクを限定する戦略も検討しうる。
リスクファクター一覧
| リスク | 営業利益影響 | 株価影響 | 発生確率 |
|---|---|---|---|
| 販管費の期末一括計上 | -30億円 | -2〜-4% | 30% |
| 為替の円高進行 | -20億円 | -1〜-3% | 25% |
| FY26 Q1ガイダンスが950億円未満 | — | -7〜-12% | 30% |
| 中国向け先端装置の輸出規制強化示唆 | — | -5〜-8% | 15% |
| 速報値からの下方修正(監査法人指摘等) | -10億円 | -3〜-5% | 5% |
| バリュエーション(PER)の圧縮 | — | -8〜-15% | 40% |
| 半導体装置セクター全体の調整 | — | -5〜-10% | 20% |
最大のリスクは業績ではなくバリュエーション。業績が中央シナリオ通りに着地しても、PER 62倍から50倍への圧縮が生じれば-20%前後の下落が発生しうる。
データソース
- ディスコ「2026年3月期 第3四半期 決算説明資料」(2026年1月21日発表)
- ディスコ「2026年3月期 第3四半期 決算説明会 スライド+スピーカーノート」(2026年1月21日発表)
- ディスコ「2026年3月期 第3四半期 決算補足情報(Excel)」
- ディスコ「2026年3月期 第4四半期 個別売上高および出荷額の速報値に関するお知らせ」(2026年4月6日発表)
- EDINET有価証券報告書データベース: ディスコ(E01506)FY2020〜FY2025年次財務データ
- Yahoo!ファイナンス: 株価・時価総額・PER等の市場データ(2026年4月17日終値時点)、過去10四半期の株価履歴
免責事項: 本レポートは公開情報に基づく分析であり、特定銘柄の売買を推奨するものではありません。投資判断は各自の責任においてお願いいたします。記載の予測値は一定の前提に基づく試算であり、将来の業績を保証するものではありません。
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